勘違い男


勘違いや思い込みはよくあること。とは言えそれが数年に及び、自分のみならまだしも相手がいることだと、相手の気分を害してしまうこともあり、無いに越したことはありません。ただ勘違いしている本人に悪気はなく、純粋にそのことを真実であると思い込んでいるのみであります。だからこそ性質が悪いとも言えますが。

今回は私の『勘違い』に関する体験談を(登場人物の名前は架空であります)お話ししたいと思います。あまり面白い話ではございませんが、それではしばしお付き合いを。

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思い出話にございます。田舎の地元青年の集まり(消防団)で、非常に珍しい苗字の男と知り合いになりました。仮にその苗字を『珍名(ちんな)』君といたしましょう。

彼は私よりも3つばかり年下でございましたが、何とも馬が合い意気投合。役員を一緒にやったり、同じようなタイミングで子供を授かったり、その子を出産した病院も一緒だったりとご縁が続きました。

野球とお酒が大好きで性格も良い、ちんな君のことを(少し偉そうな表現をさせて頂きますと)私は大層気に入ってしまったのです。

ただそんな彼に唯一辟易させられたのがお姉さんの話。3つばかり年上にお姉さんがいらっしゃるそうで、面白いエピソードを語ってくれたのですが、私と面識があるはずだと言うのです。いやいや、そんな筈はございません。いかに記憶力の悪い私とて、一度聞いたら忘れようもない苗字。『珍名』をちんなと読むのも(そうとしか読めないだろうと思いつつも)、「ちんな君」と声に出して呼ぶことも、初体験なのですから。

しかし不思議なことに生年月日を聞いてみると、確かに私と同学年。そして田舎のことですから地元には小学校と全くメンバーの変わらない中学校が一つずつあるだけ。つまりは、この辺で生まれ育っていれば面識があるのも当たり前なのです。

当時を思い返してみますと、1学年は3クラスでしたから約130名。全員の名前を覚えておらずとも珍しい苗字なれば記憶に残るはずで、彼か彼女の勘違いであろうと思いました。

しかしその後も、ちんな君はたびたびお姉さんの話をしてきました。ですが、知らないものは知らないのです。その話題が楽しいものになることは決してありませんでした。

それから数年が経ち、役員も終えて、ちんな君と飲む機会もなくなり、会う機会すら減ったある日。

突然に、何の前触れもなく、え⁉︎もしかして『ちんなさん⁉︎』という思いが頭に浮かびました。つまり彼のお姉さんのことを私は知っており、いつ知ったかと言うと小学生の頃であり、同じクラスでは無かったのですが、確かに会話したこともあったのです。

なんということでしょう。ちんな君と出会い、お姉さんの話を聞いてから10年以上の月日が流れていました。

勘違い男は私だったのです。

全力で言い訳を考えてみますと、彼女の『珍名』という漢字を見る前に『ちんなさん』という呼び名を覚えてしまったので、漢字はうろ覚えでありました。更には子供の頃は珍しい苗字だとも思っていなかったのです。ですから『ちんな君』と『ちんなさん』が同じ珍名家の姉弟であるのではないか?というごく普通な考えに思い至りませんでした。

ああ、全ては私の勘違い。ちんな君の言っていたことは全て正しく、私が全否定してきたことは全て間違いだったのであります。穴があったら入りたいとはこの事で、大慌てで、それでもあまりの恥ずかしいからさりげなさを装いながら、ちんな君にお姉さんを知っていたことをお詫びし、伝えたのでありました。

もしも私が出会った当初に、「もしかしたら自分が勘違いしているのではないか?」と自分自身を疑うことが出来たなら、これほど長く失礼な勘違いを防げたことでしょう。難しいことでは無かったはずなのです。同級生に一言「うちの学年に、ちんなさんって居たっけ?」と聞けば良かっただけなのですから。

しかしそれは無理なこと。私に悪気はなく、純粋にそのことを真実であると思い込んでいたので、どうにもなりません。楽しく懐かしさも感ぜられる話題となるはずだった、ちんな君の話を台無しにしてしまったことは取り返しがつきません。本当に残念でありました。

ただ唯一、不幸中の幸いと申しますか、ちんな君はとても性格が良い男なので、そんな勘違い男である私と今でも仲良しでいてくれております。ただ、これももしかしたら、勘違いなのかもしれません。

以上、勘違い男のお粗末なお話しでございました。

どうか皆さまにおかれましては、勘違いの少なき人生を送られますようご祈念いたしまして結びの言葉とさせて頂きます。お読み頂きありがとうございました。


kuruma










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